大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)53号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで原告主張の審決の取消事由の有無について順次検討する。

1 審決の取消事由1の主張について

(一) まず、本願発明における受容域及び分離域の位置関係と機能についてみるに、当事者間に争いのない本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証の一、二によると、次の事実が認められる。

「本願発明における受容域とは、螺旋仕上げ室の下方端部を含み、加工片と仕上げ媒体とを同時に又は各別に重力によつて直接受け入れるようになつている一領域であり、また、分離域とは、螺旋仕上げ室の上部(好適にはその最上部)にあつて、螺旋仕上げ室の底部開口に関連して設けられた、加工片と仕上げ媒体との混合物から、仕上げ媒体を選別分離する一領域であつて、その具体的装置としては、スクリーン又はその他の多孔部材若しくは磁気分離手段などからなるものである。」

また、本願発明の装置における加工片及び仕上げ媒体の移動過程をみるに、前掲甲第二号証の一、二によると、次の事実が認められる。

「まずバツチ処理の場合においては、加工片の研摩加工中は、分離装置は作動せず、螺旋仕上げ室より分離域に到る加工片と仕上げ媒体との混合物は、螺旋仕上げ室の上部開口部から戻りダクトを通つて受容域に戻り、これが順次繰り返されて加工が進行する。そして加工片が所期の仕上げ状態に達すると、分離装置を作動し、同域において加工片と仕上げ媒体とが分離され、加工片は同域から移動して別の容器に集められ、仕上げ媒体は、分離域より重力によつて受容域に戻る。こうして装置に装入された加工片のすべてが回収されると、一単位量の仕上げ加工が完了する。

また、加工片の連続処理の場合にあつては、研摩加工が行われる螺旋仕上げ室が長く、同室を移動する加工片は、その間に仕上げ媒体と充分接触、研摩され、分離域に到達する時点においては所期の仕上げ加工が完了しうる程度にまで加工される。そして、分離域に達した加工片は、その分離装置に保持されて螺旋仕上げ室の端部から取り出され、また、仕上げ媒体は、分離装置において加工片と分離し、戻りダクトを通つて重力により受容域に戻る。受容域においては、落下する媒体を受け入れるとともに、分離域で媒体から連続的に分離される加工片と同量の未加工の加工片が連続的に装入されることとなる。こうして、仕上げ媒体は、常時螺旋仕上げ室を循環するが、加工片は所期の仕上げ加工が施される期間だけ装置内に留まる。」

(二) 次に、第一引用例に示された装置について、本願発明における(一)に認定した点を対比しつつ考えるに、成立に争いのない甲第三号証によると、次の事実が認められる。「本願発明における受容域に相当するものは、第一引用例の装置にあつては、開口部43に対向する螺旋形研摩室の中間領域であるとみられるが、同領域は、螺旋形研摩室の中間部を占め、また、螺旋形研摩室に設けられた段の底部の同室の最低位置側面の開口部に関連して孔明き部材又は金網よりなる分離装置が設けられている。分離装置に付属する仕切り又は扉が開放されているときは、螺旋形研摩室のこの領域を移動する混合物のうち加工片だけを選別分離して装置外に排出し、仕上げ媒体だけを螺旋形研摩室内に循環させるようにしてあるところからすると、分離装置を包含する螺旋形研摩室の領域が第一引用例の装置における分離域とみられる。そして、この分離域は、螺旋形研摩室の最低部に位置するから、分離域が受容域よりも上部を占めることはありえない。

また、開口部43から螺旋形研摩室中間部に供給された加工片及び仕上げ媒体は、振動装置の作動により螺旋形研摩室の傾斜に沿つて上方に移動循環し、段から落下したときに両者は好適に混合、分散し、段の下底部を通過しながら加工片に対する研摩加工が進行する。その際、分離装置のシヤツタが閉じていれば、混合物は螺旋形研摩室内を循環し、加工片が所期の仕上げ状態に研摩されたときは、シヤツタを開くことにより、加工片は、螺旋形研摩室の最底側面に開口する分離装置を通して外部に排出され、仕上げ媒体は、螺旋形研摩室内に保持されて装置内を循環する。この場合において、前記分離域は、螺旋形研摩室の最低部を占めるので、分離された仕上げ媒体が重力によつて受容域に戻るということはありえない。

(三) 以上のことから明らかなとおり、第一引用例の装置においては、分離域が螺旋形研摩室の最低位置を占めるから、ここで加工片から分離された媒体を重力によつて螺旋形研摩室の他の領域を占める受容域に直接戻すことはできず、また、仕上げ媒体は、段から重力で落下するが、これは加工片と媒体とを混合分散させ加工片に対する均質で効果的な研摩を施すことを目的とするものであるから、必ず両者は混合した状態で落下することとなる。これに対し、本願発明にあつては、上下の位置関係にある分離域と受容域とを垂直に配向された螺旋仕上げ室により連結し、分離域に設けた分離装置を通して加工片から分離した媒体を重力により直接受容域に戻す点に特徴があるのであり、このような本願発明の構成は、第一引用例にはもちろん、第二引用例にも全く記載がないばかりでなく、示唆もされていない。

しかるに、審決は、本願発明と第一引用例のものとを対比するに当り、このような構成上の顕著な相違点を看過し、その判断を誤つたものである。

2 審決の取消事由2の主張について

(一) 本願発明と第一引用例の装置との間には、受容域と分離域との位置関係について、構成上顕著な相違があることは、1に述べたとおりである。

(二) そこで、これより進んで、加工片と仕上げ媒体との粒度の関係について考える。

(1) 前掲甲第三号証によると、第一引用例に記載のものは、螺旋形研摩室の段の底部側面に設けられた開口部を保護する孔明き部材又は網状部材による分離装置により、加工片のみを選別して装置外に取り出すようにしたところからみて、加工片と仕上げ媒体との粒度は、前者が小で後者が大であること、すなわち、小粒の加工片と大粒の媒体とを用いるものであると認められる。

(2) ところで、前掲甲第二号証の一、二によると、本願発明の明細書に記載の実施例には、いずれも、分離域に設けられた分離装置が網目スクリーンからなり、分離域に到る混合物は、網目を通して加工片から仕上げ媒体が選別、分離され、媒体は重力によつて直接受容域に戻され、また、加工片は分離装置の上を移動前進するよう記載されており、大粒の加工片と小粒の媒体との混合物として加工片を研摩する場合における装置について記載されていることが認められる。しかしながら、前記明細書中には、そのほかに、本願発明における分離装置は、磁気分離装置であつてもよい旨の記載があることからしても明らかなとおり、加工片と仕上げ媒体との選別手段は、必ずしも両者の粒度の大小を利用するもののみにとどまらず材質の相違に基づいて行われるものも示されているのである。またそればかりでなく、明細書には、特に明示の説明はないけれども、そこに記載の実施例の分離域内の分離装置において、異なる等級の網目スクリーンを適宜使用する(例えば、小粒の加工片のみが通過するスクリーンを、大粒の媒体が通過する戻りダクト開口部の直前に設置して加工片のみを収容し、媒体を受容域に落下させる。)ことにより、技術的困難を伴うことなく、小粒の加工片と大粒の媒体との混合物を装入、運転して加工片と媒体とを分離し媒体のみを重力によつて直接受容域に戻すことも容易に実施しうるところである。そして、本願発明の特許請求の範囲には、加工片と媒体との粒度について特段の限定がないのであるから、その明細書中に右のとおりの説明があることに徴すれば、本願発明を右粒度について審決認定のように限定して解することは当を得ないというべきである。

(三) 以上のことからすると、本願発明にあつては、分離装置は、加工片から仕上げ媒体を分離し、分離した媒体を重力により受容域に戻すことが要件とされているだけであつて、加工片と仕上げ媒体との粒度の大小関係と分離装置及び仕上げ室の位置関係との間には、何ら必然的関係はない。したがつて、審決が、本願発明と第一引用例とを対比するに当たり、「本願発明は、加工片が仕上げ媒体よりもその粒度が大きいために、仕上げ室の最上部に配置された分離装置によつて、加工片と仕上げ媒体が分離される」とし、この点を第一引用例との相違点としたのは、誤つているというべきである。

3 以上のとおりであつて、本願発明について進歩性を否定した審決は、右のとおり、加工片と媒体との粒度について、本願発明の要旨の判断を誤つた結果、前1に述べたとおり、本願発明と第一引用例のものとを対比するに当り、受容域と分離域との構成上の差異を看過するにいたり、結局誤つた判断をしたことが明らかであるから、原告のその余の主張について判断するまでもなく、審決は違法なものとして取消されるべきである。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

加工片の表面を仕上げるための仕上げ機械において、垂直に配向された螺旋仕上げ室を形成している振動自在に装置されたハウジングを具備し、前記螺旋仕上げ室はさらに仕上げ媒体及び加工片を受け入れるようになつている受容域と、該受容域の上方附近で好適には前記仕上げ室の最上部に配置された分離域を有し、また、加工片及び仕上げ媒体の混合体に振動を与えて、加工片の仕上げを行ないかつ混合体を螺旋仕上げ室に沿つて上方に移送させるために前記ハウジングと作動的に関連して設けられた振動装置を具備し、更に、前記分離域は、分離域内の前記仕上げ室の底部に設けられた開口と関連して仕上げ媒体と加工片を分離する装置を具備し、該分離装置により加工片から分離された仕上げ媒体を重力により受容域へ戻すことができるようにしたことを特徴とする仕上げ機械

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙(一) 本願発明「Fig.3以下は略」

<省略>

別紙(二) 第一引用例「Fig.3以下は略」

<省略>

別紙(三) 第二引用例「Fig.2以下は略」

<省略>

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